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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第122回クロツラヘラサギ
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第122回 2012/1/01
クロツラヘラサギ

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クロツラヘラサギ

120)クロツラヘラサギ 「コウノトリ目トキ科ヘラサギ属」

    英 名:Black-faced spoonbill
    学 名:Platalea minor
    漢字名:黒面箆鷺
    大きさ:75cm

昨年11月下旬、私が住んでおります埼玉県に、なんとクロツラヘラサギが1羽舞い降りて来ました。川越市伊佐沼に降り立った個体は、若鳥で、11月下旬から12月中旬まで滞在した後、飛び去って行きました。この直前に、群馬県多々良沼でも1羽の若いクロツラヘラサギが短期間観察されましたので、同一の個体かもしれません。この埼玉県伊佐沼では、2003年の調査でも若鳥1羽が、これは夏(8月)に観察されています。東アジアの固有種で、絶滅危惧種IA類に指定されています。

希少種クロツラヘラサギは、関東地方では、毎冬、東京都葛西臨海公園の海側で1,2羽が観察されるほか、時折利根川の河口域でも単独でいるところが見かけられています。国内の観察地としては、福岡県福岡市、多々良川の河口で数10羽が越冬しているのが最大の越冬数のようです。また、世界的な規模では、日本野鳥の会の「2011年クロツラヘラサギ世界一斉個体数調査の結果」によると総個体数1848、全生息数のおよそ50%が台湾(台南)で、また20%が香港で越冬していると報告されています(中国、韓国、日本以外の国としては、ベトナム、マカオ、タイ、カンボジア)。2011年1月の全国調査では、207羽が7県44ヶ所で確認されています。

越冬地の集中は、そこでの病気感染による絶滅の危惧から、以前ナベヅルやマナヅルについての記載の際にも述べましたようにあまり望ましいことではありません。事実、台湾では2002年から2003年にかけての冬、ボツリヌス菌による感染で73羽が中毒死しています。

また、日本野鳥の会によると繁殖地は限定されていて、朝鮮半島の南北境界線(非武装地帯)の離島、その北側の北朝鮮西海岸側の離島、中国遼寧省の離島だけだとされています。今回埼玉県川越市で観察された若い個体は、以上の繁殖地のうちのいずれかから飛び立ち、ここで休息を取った後、さらに南へと飛び立ったものと思われます。

下は、香港米埔自然環境保護区で集団越冬するクロツラヘラサギです。やはり、集団でいる方が私の目には自然に映ります。

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クロツラヘラサギには冠羽があり、自在に動かすことができるようです。タイトル写真の個体は、冠羽をねかせていますが、下は冠羽を立てて休息している状態です(いずれも、福岡市多々良川河口)。まさに名前の通り冠状の飾りは目立ちます(手前いちばん左はコサギです)。

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前回の「ハシビロガモ」の説明でも記載しましたように、嘴に特徴のある種は、その採餌の方法にも特徴が現れます(実際には、採餌の方法が嘴の形状を決定しているのでしょう)。ご覧のように、嘴は、その名前の通りヘラ状で、英名のSpoonbillもそこからとられています。この嘴は、ハシビロガモと異なり、内側に板歯をもたず、平らになっています。また、人工的に繁殖させたクロツラヘラサギを飼育している飼育園(掛川花鳥園)の説明では、「薄っぺらくて柔らかな樹脂のような触感」だとされています。

餌とするのは、魚のほかエビやカニなどの甲殻類で、動物食です。この餌を泥の中で見つけて丸呑みするのですが、その方法に特徴があります。よく似たヘラサギも同じなのですが、嘴を水中の泥に突っ込み、頭を左右に振りながら嘴の触覚で餌を探し当てるのです。ですから、採餌に際しては常に頭を水面に近づけます。

下左の写真をご覧ください。眼で餌を探すチュウサギは、頸をまっすぐに立てます。それに対してクロツラヘラサギはまるで首をすくめるようにさえ見え、チュウサギの方がかなり大きく見えます。ところが実際の大きさは、チュウサギ65㎝に対して、クロツラヘラサギ77㎝なのです。下右の写真をご参照ください(双方、川越市伊佐沼)。

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他のすべての野鳥にいえることですが、幼鳥から成鳥になる過程では、嘴や羽の形状と光彩を含んでその色に変化があります。上の2枚と下の写真は今回、川越市で観察された幼鳥です。嘴の色が真っ黒ではなく、肉色味を帯びています。また、下の羽を広げた写真に特徴的なのですが、風切羽先端が黒いのです。資料によりますと、光彩の色も幼鳥は紺色だとされていますが、その点は残念ながらこの写真では確認できません。

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他方、タイトル写真の個体の上嘴には、しわが入っており、その先端は黄色です(画像をクリックして、拡大写真にてご確認ください)。また胸は薄く橙色味を帯びています。この特徴は、成鳥とりわけ5歳以上の成鳥だとされています。更に成鳥は、羽は真っ白で、タイトル写真の下の、群れで越冬する個体群の左側の個体の羽根をご覧ください。また、休息中のクロツラヘラサギの右側の個体の冠羽にも薄く橙色味が入っています。白い羽と橙色の胸と冠羽は、成鳥の特徴です。

東アジアの希少種クロツラヘラサギ。繁殖する場所も、越冬する場所も限られている野鳥です。場所の環境が悪化しないこと、病気感染のないことを切に祈るしかありません。

 

 

(注)写真は、画面上をクリックすると拡大できます。

 

 



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