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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第59回オナガガモ


第59回 2006/10/01
オナガガモ

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(57)オナガガモ  「カモ目カモ科」
    英名:(Northern)Pintail
    学名:Anas acuta
    漢字表記:尾長鴨
    大きさ:オス75cm、メス53cm

今月の中旬以降には、冬の代表的な渡り鳥、カモの仲間がやってくるはずです。その中でも最も個体数が多く、誰にも親しまれているオナガガモを取り上げてみましょう。カモの中では、大きいほうで、カルガモやマガモより大きめです。

冬のある日、東京上野にある上野動物園を訪れたことがあります。動物園の出口付近に何種類かの野鳥を入れたケージがありました。その中に、オナガガモが番で飼われていました。動物園の外は、ご存知不忍池です。この不忍池には少なくとも千羽を越えるオナガガモが元気に泳ぎ回り、時としては歩行者の与えるパン屑などに平気で群がってきます。動物園の中で飼育されているオナガガモがなんとも元気がなく、羽の色艶にも精彩を欠いていたのに対して、外の大軍団のまさに自然な輝きと傍若無人な活発さがいかにも対照的だったことが今でも思い出されます。

日本名の由来は、このカモの尾がピンと長いことから来ているのでしょう。語感から行っても私は英語名のPintailのほうが好みです。Pinとは釘やいわゆるピンのことで、長いというよりも綺麗に先端が尖っている様子がよく表現されているようには感じられませんでしょうか。

オスの頭部は茶褐色(チョコレート色)で、高等部から首そして胸は白、この部分だけでも他のカモと見間違うことはないでしょう。下尾筒は黒ですが、腹部との境目は淡い黄色、頭部、腹部と羽を除いた部分は細かい模様の入った灰色です。他方メスにはこのような明確なコントラストはなく、全体的に褐色で黒味の強い斑紋が入っています。一般的にカモのメスはなかなか見分け方が難しいのですが、まず体型がオスに似ていること、このカモの特徴である尾も、オスほどではないものの長いこと、またオスでは黒い下尾筒が白いことで判断できると思います。

さて、カモには「翼鏡」と呼ばれる金属光沢をもつ綺麗な羽があります。翼を広げた際その先端部を初列風切羽と呼びますが、それに繋がる部分を次列風切羽と呼び、その部分が翼鏡とも呼ばれるのです。次の写真左はオスで、翼の奥に緑色の翼鏡が見えます。他方右の写真はメスで、羽を広げた上から二番目の風切羽(翼鏡)が茶色なのが分かります。つまり、オナガガモは雌雄によって翼鏡の色が異なるのです(ほとんどのカモが雌雄同じ翼鏡の色をしています)。

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ユーラシア大陸と北アメリカ大陸、つまり北半球全域の北部に広く生息し、冬に南部に渡って越冬します。ヨーロッパでも、アメリカでも、そしてこの日本でも冬場には広く見かけることができます。湖や川などの淡水系で主に見かけられ、あまり海水域では観察例がありません。淡水系のカモと分類してもよいのでしょう。

餌は主に水草や植物の種子などですが、動物性の貝類や水棲昆虫なども採るようです。採餌行動は、身体を完全に潜水させることはあまりなく、餌に向かってまっさかさまに首を突っ込み、真直ぐ伸びた尾だけが水面に出ている様子がよく観察されます。このカモの首の長さがこうした採餌行為を可能にしているようです。この餌を求めて尾だけを水面に出している状態のとき、ピン・テールという英語名がまさに的を得ている感じがします。

さてカモは冬の季語。オナガガモの名前は江戸時代前期につけられたようです(それ以前は、さきがも、さらに転じてさくがも)。それゆえこの名前で古典に登場することはありません。

正岡子規は、「寒山落木」(明治28年1895年)のなかで上野のカモをこう詠んでいます。

 
鴨啼くや上野は闇に横はる

冒頭に上げた上野不忍池に渡ってくるカモのうち6,7割がオナガガモであり、通常2千から3千羽がここで越冬しているそうです。 そうしますとここで啼く鴨は、6,7割の確立でオナガガモだったのでしょう。

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さて、諏訪流第16代鷹師、花見薫さんは、自身の著書「天皇の鷹匠」(2002年草思社)の中で、鴨肉の味について、一番おいしいのがコガモ、そしてマガモであると述べ、その次にこのオナガガモを挙げています。狩猟をお勧めしているのではありませんが(私は日本野鳥の会、埼玉県生態系保護協会の会員です)、いまや昔ながらのカモ狩りの伝統もほぼ廃れ、野生の鴨肉の味を知る人もいない時代です。大量生産された安いブロイラー(鶏肉)の時代に敢えて、鴨肉ベストスリーを挙げてみた次第です。

 これから次第に増えてくるカモの仲間たち。じっくりとその様子を見てみませんか。

注:写真は、画像上をクリックすると拡大します。