White
White CEC LOGO HOME 製品 テクノロジー サービス 会社概要 コラム メール English White
White

ホーム/コラム/みだれ観照記/スノーボール・アース

第24回 2004/06/01
スノーボール・アース
24

書名:スノーボール・アース
著者:ガブリエル・ウォーカー
訳者:度会圭子
出版社:早川書房
出版年月日:2004年2月29日
ISBN:4−15−208550−9
価格:1,900円

英文の原題をそのままカタカナとしてタイトルに使用。日本語で「生命大進化をもたらした全地球凍結」と付帯させています。これは、恐らく「全地球凍結」論がまだ日本では市民権を得ていないとの出版社の判断のよるものであったろうと想像できます。

筆者ガブリエル・ウォーカーは、間違いなくこの理論の賛同者と思われるが、自己の主張と経験を背後に置き、理論(論争)史の客観的な観察者として、この「全地球凍結」論の誕生から今日に至るまでを書き綴ります。最後まで自己の主張(仮説)である「全地球凍結仮説」を様々な困難に打ち勝ちながら、優れた共同研究者の助力を得て、今日では多くの地球物理学者、地質学者たちをほぼ間違いないと確信させるに至ずとも、決して無視できない状態までに持ち込んだ、異端の地質学者ポール・ホフマンをまず主人公にしながら、この仮説の進化を説得力ある語り口で説明してくれます。

よく知られているように、地球生命は、約5億5千万年前のカンブリア紀に突如として爆発的に発展を遂げ始めます。リチャード・フォーティが『生命40億年史』で、化石として石の中に閉じ込められた様々な形態と機能を持った生命体のその後の進化を著述しているのも、このカンブリア紀からです。それ以前の生命体は、今日でもそのままの生態をオーストラリアの一部(西オーストラリア州シャーク湾)にとどめる藻類(ストロマトライト)や単細胞アメーバー生命体に支配される、先カンブリア時代と呼称され、何とその時代が地球史の90%に及ぶ40億年間続いたのです。

カンブリア紀以降の生命史は、化石の発掘と調査の進展の中で次第に明確となりつつあります。しかし全地球生命史の90%を占める先カンブリア時代の生物史を示す多様な痕跡は、石の中には発見されず、地質学上は暗黒時代の扱いだたようです。その時代に興味を持ち、地球史に大胆な仮説のメスをいれ、その実証に研究生命をささげたのがポール・ホフマンであり、その仮説が、およそ1000メートルにわたる厚い氷に全地球が覆われた時期がこの「暗黒時代」にあったとする「全地球凍結論」です。フォーティーは『生命40億年全史』で、こう述べています。「先カンブリア時代の終わりとカンブリア紀の始まり直前の境目あたりで、地球の歴史上でも最大規模の激変が勃発したことはたしかである。」しかしフォーティーはそれがいかなるものであるかについての記述を避けました。その激変が、「全地球凍結」だったとするのがポール・ホフマンだったのです。

この『スノーボール・アース』の中で、実はこの全地球凍結論が最初に唱えられたのはポール・ホフマンではなく、ブライアン・ハーランドであったこと。またさらにはその先駆を100年も以前にスイスのルイ・アガシが端緒的に地球規模の氷河期の存在を説いていたことが説明されます。アガシの学説は、その不徹底さゆえに1850年代に一旦学会から否定されてしまいます。また、ブライアン・ハーランドの凍結論も、プレートテクトロニクスによる大陸移動説が証明されたことにより霞んでしまう。こうして全地球凍結論の発展には、石の誕生の場所を証明する、磁場の研究成果を待つ必要がありました。その第一人者、ジョー・カーシュヴィンクの介在なくして、今日の全地球凍結論は存在しえなかったことを、わかりやすくく伝えてくれます。

このジョーとポールとの共同作業が、一気に地球凍結論の多くの未解決の分野に光を与えていく。著者は、全地球凍結論の歴史の上に、結論的に「全地球凍結は二回起こっていることがわかった。少なくとも一回は二十億年以上前、そして、七億五千万年前から五億六千万年までに、おそらく四回は地球を氷が飲み込んでいる」。その直接的な要因が何であれ、大陸が移動し続けている、生きている地球の、何億年か先に再度の全地球凍結が発生することを断言する。「今からは想像もつかないくらい進んでいるであろう」我々の子孫がそれを「阻止することが可能かもしれない」。しかし、「変化は地球にとって危険なことではない。それこそが本質なのだ。この地球の一段面を共有する私たち人間や他の動物は、弱き者なのである」と筆をおく。

本年5月中旬のNHKの地球生命の歴史を扱う番組では既に、この「全地球凍結」を前提とした製作がなされていました。未だ懐疑的である人々の多い少ないを別にして、これによって多くの事象が説明できるようになったことの証左でしょう。今回の著作に関わらず、地球史を扱う地球物理学、地質学に関係する最新の著作を目にするたびに、「地球に優しく」といった多くの類の企業宣伝の軽さがやりきれなさを誘ってなりません。