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ホーム/コラム/徒然野鳥記/第103回トラツグミ
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第103回 2010/06/01
トラツグミ

トラツグミ

トラツグミ

(101)トラツグミ 
    「スズメ目ツグミ科トラツグミ属」
    英 名:White’s Trush
    学 名:Zoothera dauma

    漢字名:虎鶫
    大きさ:30 cm

 


今年は寅年、それに因んだわけでもないでしょうが、関東地方の平野部ではこの冬かなりの個体数のトラツグミを都市公園で見かけることができました(もっぱらさいたま市内の秋ヶ瀬公園)。また、今年1月末に上海に出かけた折、有名な世紀公園でも出会うことができました。黄色っぽい身体の表面に、黒いうろこ状の斑が入り、トラの縞模様にも見て取れることから付けられたと思われます。中国語名でも、「虎斑地鳥」とよぶことから、黄色地に黒い縞模様をトラに見立てるのは、ここでも共通のようです。

普通国内で観察できるツグミの中では最も大きい種類です。関東地方の平野部では、冬になると越冬に飛来し、高山地帯で繁殖します。その意味では漂鳥です。北海道では、夏鳥です。

世界的な分布は、朝鮮半島を含む東北アジアで繁殖、また越冬は東南アジアで一部インド東部にも及ぶといわれています。また、豪州、ニュージーランドでの棲息も確認されていますので、東半球の鳥といえます。また群れで見かけたことがないせいでしょうか、個体数はあまり多くないものと考えております。長年野鳥観察を続けておりますが、つい数年前まで出会う機会がなく、是非見たい鳥の一種でしたので、今年のように多くの個体を、それも春の近づいた3月まで見ることができたのは幸運でした。タイトルの写真は、3月のトラツグミ(さいたま市秋ヶ瀬公園)です。

長年の思い入れがあるからでしょうか、私にはさびしげだといわれる「ヒィー、ヒィー」と聞こえる声も、涼しげに聞こえますし、大きい容姿とコントラストの明確な色合いが実に綺麗に見えます。夜よく鳴くと言われますが、曇り空の日中にしか聞いたことがありません。なかなか直射日光の当たる明るい場所に出てくることはなく、日陰となる地面で落葉を払いのけ、その下のミミズや昆虫の幼虫を探している姿を見かけることがほとんどでした(純動物食ではなく、木の実なども餌とする雑食性のようです)。下は、蛾の幼虫を捕らえたトラツグミです。上海では、木の低い枝にとまって時折地面に降りては、落葉を払いのけていました。

蛾の幼虫を捕らえたトラツグミ
蛾の幼虫を捕らえたトラツグミ

夜鳴く鳥といえば、このトラツグミ以外には、ヨタカ、フクロウの仲間、クロウタドリなどがいますが、いずれも実際に夜半に耳にしてみますと、寂しげであったり、悲しげにも聞こえます。夜はよく音が通りますし、一瞬ギョッとする思いですが、いずれもそれほど周波数が高くないからだと思われます。私はトラツグミの声を夜聞いたことが無いので、トラツグミだけに、「うらなけ」、「片恋づま」、「のどよふ」などの悲しい言葉の枕詞を当てるのはいかがなものかと思ってしまいます。

さてこのトラツグミは、鵺(ぬえ)と呼ばれ気味悪い鳥、不吉な鳥というイメージがもたれています。最近でも、「山地の暗い森林に多く、夜間、『ヒョーヒョー』と気味悪く鳴くので昔から、鵺・地獄鳥と呼ばれてきらわれる」と記載されてもいます(小学館「鳥の手帖」)。 夜鳴くことにくわえて、日中あまり人目につかない日陰の場所で採餌することから、陰湿なイメージを生み出したのではないでしょうか。

トラツグミという名前自体はどうも江戸時代からのようです。その時代になってトラツグミがツグミの一種であることが判明し、別名として「おにつぐみ」とも「ぬえつぐみ」とも「ぬえじなひ」とも呼ばれていたようです(鳥名の由来辞典「柏書房」)。また、同辞典によれば、それ以前の古事記、万葉時代の「ぬえ」が「おにつぐみ」であると断じたのは、貝原益軒(大和本草)だと解説されています。

大きな派手な色彩をした、しかしなかなか日のあたる場所に出てこないこのトラツグミ、私には大変シャイな美人のイメージがあるのですが、万葉の時代からその鳴き声だけがよく詠まれています。

ひさかたの天の川原にぬえ鳥のうら歎(な)けましつともしきまでに 万葉集うら歎けとは心の底からの嘆き)

ここでは「うら歎け」の枕詞として「ぬえ鳥」が使われています。

飛ぶ鳥の明日香の川の上つ瀬にで始まる、柿本人麻呂の長歌では、「片恋」の枕詞として「ぬえ鳥」が使用されます。 また、山上憶良の「貧窮問答歌」は、風まじり雨降る夜の雨まじり雪降るよるはすべもなくと寂しげに始まり、「のどよび」の枕詞が「奴延(ぬえ)」とされています。のどよびとは、恐らく低い声の様子で、いずれも悲しいこと、さびしいことの代名詞として使用されています。万葉の時代には、人の住む里でも、夜半、トラツグミの声が良く聞こえたようです。

俳句の世界では、トラツグミは夏の季語です。

やはり悲しいことの代名詞として使用されている句です。

とらつぐみ恋文ひとつひとつ燃す   大石 悦子

トラツグミを観て歌ったと思われます。

虎鶫雨来し方の北寄りに       上村 占魚

虎鶫眠りの国の霧らひつつ      堀口 星眠

トラツグミの声を歌っています。

切り株にためらひ傷や鵺啼けり    平井 さちこ

あまり明るいイメージで詩歌に詠まれることがないトラツグミ、皆さんはどのように感じられるでしょうか。来る冬、ひょっとしたら近所の落葉樹のある公園に、落葉の敷き詰められたスペースに、トラツグミを探してみてください。意外と近くで見かけることができるかもしれません。









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