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第93回 2009/08/01
ノスリ

ノスリ
ノスリ

91)ノスリ 「タカ目タカ科ノスリ属」
    英 名:Common Buzzard
    学 名:Buteo buteo
    漢字名:鵟
    大きさ:5256 cm




タカの仲間、ノスリをご紹介しましょう。少なくとも関東地方では、トビに次いで個体数が多いように思われる、さほど珍しくはない猛禽類の一種です。野鳥観察者以外では、あまり、注目されることが少ないようです。それは、おそらく羽の色が茶褐色で実に地味なうえ、オオタカやハヤブサと異なり、獲物を捕獲する時にも際立った特異性がないためではないかと思われます。小型の野鳥を採ることがあまりなく、ネズミ類を主な餌とするため鷹狩りに使えず、可哀そうなことに、「くそとび」や「まぐそたか」などの異名を冠されてもいます。しかし逆に、農作物を食べるネズミや昆虫類を捕食することから、「農地の守り神」とも言われてきたようです。

日本国内でのノスリは、3亜種記録されています。亜種ノスリ、亜種ダイトウノスリ(大東諸島で留鳥)、亜種オガサワラノスリ(小笠原諸島で留鳥)ですが、ここでは国内に広く生息する亜種ノスリについて述べていきます。(他の2亜種は残念ながら観察できていません。2亜種とも絶滅偽具種でここ数年の観察記録には接していません。)

他のタカ類と同じで、メスは56cm、オスは52cmと、メスの方が一回り大きいのです。関東地方の平野部では、普通冬場に多く見られますが、夏場には山岳地帯に移動し繁殖しているようです。世界的な分布では、日本列島全土、ユーラシア大陸中部、東南アジアからアフリカ大陸東部と広く分布していますが、南北アメリカ大陸での観察記録はないようです。

ノスリは背中が濃い茶褐色で、背中の部分だけを遠くから見るとトビと区別が付かないくらいですが、飛翔中の翼下部を見ると違いが一目瞭然です。トビは全体として黒いのに対して、ノスリは白っぽい印象を受けます。よく見ますと薄い褐色なのですが。また、トビの尾の先が直線的なのにたいして、ノスリの尾の先は丸みを帯びています。下の写真は、さいたま市彩湖上空をホバリングしているノスリです。翼下面のシロっぽい色合いと尾の先端の丸みをご確認下さい。

ホバリングするノスリ
ホバリングするノスリ

また、チュウヒと越冬場所が重なることが多いのですが、チュウヒの尾が長く直線的なのに対して、ノスリは尾が短く、また尾先を大きく広げてホバリングできるのもチュウヒと区別できる特徴です。

さて、ノスリという名前の起源ですが、「鳥名の由来辞典」(柏書房)によりますと、江戸時代に定まったようです。「のせ」がもとになって、野の上を滑降するので、のすり(野擦り)とかわったのであろうと推測しています。この辞典では、「堀田禽譜」に描かれている「のせ」とされる絵が今日のノスリであることを根拠としています。また、「大言海」に「のせは、野兄鷹(ノセウ)の略か」と記載されていることを傍証としてあげています。奈良時代の文献にでてくる「のせ」というタカ類も、したがって、ノスリの古名であろうと述べています。

他方で、日本野鳥の会の松田道生さんは、「日光野鳥研究会」の「日光野鳥図鑑10 ノスリ」の項目で、韓国語起源説を紹介しています。このサイトではノスリの声も聞くことが出来ます。

http://nwbc.jp/torizukan/10nosuri.html

韓国語では、猛禽類の多くに「スリ」とついていることから、「野原にいるため日本語の“野”がついて野の鷹という意味が、どうも語源のようです」と述べています。「ノ」にいる「スリ」という構造になるでしょうか。確かに韓国語では、タカ類の総称はスリです。ノスリは分類的に、韓国ではメ目スリ科とされ、種名はマルトンガリです。日本ではタカ目タカ科と分類されていますが、韓国語では、メを目とし、スリを科としているのは、興味あるところです。敢えて訳せば、ワシタカ目タカ科といったところでしょうか。種名のマルトンガリは直訳するとノグソダカです。日本での古名をそのまま種名として、現在でも採用しているのは面白い事です。ただ一般の韓国の方は、マルトンガリの意味をほとんどご存知ないようですが。

韓国語が起源であるとすれば、ノスリの名前が江戸時代に定まったことが覆らない限り、いかにも時代的に新しすぎるように思われます。また、奈良時代から既に「のせ」と呼ばれたというタカがいたことからしますと、構造的には、「ノのスリ」(韓国語説)ではなく、「ノをスル」が「ノ・スリ」となったように思えます。

ノスリは、埼玉県下でも冬場普通に観察できます。飛行しながら餌を探すこともありますが、多くの場合、餌となるネズミのいそうな田圃の電柱や杭、建物、樹木の上にじっとたたずみ、付近を用心深く見渡しています。タイトル写真は湖の辺の広い草原の竹竿にとまり、下を見渡す若いノスリです(茨城県涸沼)。また、ある冬、数万のマガンが採餌している伊豆沼の田圃で、ノスリがその真ん中に飛び込み、一斉にマガンが羽音高く飛び立った光景を目撃したことがあります。その時は、ノスリもマガンを襲うのかとびっくりしましたが、恐らくそれは勘違いで、マガンの屯す田圃のどこかにいたネズミを捕獲しようとしたのだと今では記憶を訂正しています。

ノスリは冬の季語とされていますが、残念ながら、ノスリを歌った俳句、短歌はいまのところみあたりませんでした。褐色の羽をした猛禽類を見ましたら、何だトビかとよそみをする前に、ノスリではないかと注目してみませんか。下の写真のように、正面から見ると、意外と精悍な顔つきをしています(茨城県神栖市波崎港)。


精悍な顔をした飛翔中のノスリ
精悍な顔をした飛翔中のノスリ









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