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第49回 2006/07/18
ウェブ進化論

書名:ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる
著者:梅田望夫
発行所:筑摩書房 (ちくま新書)
出版年月日:2006年2月10日(初版)
ISBN:4−480−06285−8
価格:740円(税別) http://www.chikumashobo.co.jp/top/060208/index.html

産業部門の枠を超え、またその産業部門の職種の枠を超え、今日の「仕事」のほとんどは、好むと好まざるとを問わず、パーソナルコンピューター自体と、それが作り出した大規模(世界的)もしくは小規模(家庭内、企業内、意図的な集団内)なネットワークを無視しては立ち行かない時代に入っているようです。

今日のコンピューターの原型は、第2次世界戦争後の1946年、アメリカENIACによって開発されたといわれています(それに先立った同じくアメリカのABCマシーンについてはここではとりあえず捨象します)。18,000本の真空管を使用したと伝えられる初代コンピューターは、今日の評価額に直すと500億円を下回らない経費がかかったようです。その後、真空管はトランジスターに代えられ、積極的に集積回路化が図られ、小型化の道をたどります。こうして1970年代後半から1980年代、1990年代へと、スーパーコンピューターは、パーソナルコンピューターに業界の花道を譲っていきます。パーソナルコンピューターは、マイクロソフトの提唱する操作ソフト(OS)による使いやすの鼓舞と、ハード自体の低価格化競争の激化によって、1980年代から1990年代一挙に全世界の職場と生活の中に浸透していきます。

1960年代以降、スーパーコンピューターからパーソナルコンピューターの最先端に立っていたのが米国IBM。そのジャイアント企業を半世紀近くに渡って牽引してきたPC事業部(Personal Computing Division)は、中国Lenovo Groupに2005年売却されました。そこにはいったい何があったのでしょうか。その課題に答えることがこの著作の一つの課題でもあります。

70年代以降のIBMの成長と軌を一にしてきたのが、ビル・ゲイツ率いるマイクロソフト。個人所有が容易となったコンピューターに、だれもが使いやすい操作プログラムを組んでいくことによって、マイクロソフトが急成長を遂げた事はだれもが知るところです。

シリコンバレーに生活するこの業界での先駆者である著者は、こうしたIBMやマイクロソフトは、ともに自らが作り出したものをユーザーに提供するだけの、「こちら側」の世界に生存する存在、「リアル世界」の存在だと、概念規定します。さらに、 「こちら側」に住む企業にとっての最大の問題は、インターネットの開発と急速な発展とそれへのかかわり方にあったと著者は分析します。

ちなみにインターネットの起源は米国防総省の高等研究計画局が始めた分散型コンピュータネットワークの研究プロジェクトであるAPRnettであるといわれています。1986年に、ARPAnetで培った技術を元に学術機関を結ぶネットワークNSFnetが構築されたことに端を発し、これが1990年代中頃から次第に商用利用されるようになり、現在のインターネットになったわけです。しかしこのインターネットをIBMもマイクロソフトも、いかにユーザーが使いやすくするか、という「こちら側」の論理でしか対応しなかったと分析するのです。

パーソナルコンピューターの出現と発展を、今日のIT産業の第一段階の革命、インターネットを第二段階の革命、著者のことばでは「破壊的な技術」とすると、この著作で主たる論点として述べているのは、「第三段階の破壊的な技術」を実践しているのが、「あちら側」の世界の環境整備と自己発展を行う、「グーグルとその先導しようとする世界」だということなのです。

著者は、IT産業の第一世代の代表はIBM、第二世代はマイクロソフト、そして今日の第三世代の代表がグーグルであると分析します。そこには、ブログ(ウエブログ)の急速な発展が前提となり、更にはその2.0ヴァージョンへの発展に将来を見極めようとするのです。

団塊の第一世代が60歳の定年を迎える来年2007年を前にして、マスメディアはその世代が実業社会で社会的な責任を負い始めた1970年代からの30数年間の歴史を総括しながら、その多くの場合彼らの最初の職を失うであろう世代が、今後影響をなお与えていくであろう将来について、新しい市場が切り開かれていくかもしれない可能性をも示唆しながら、多くの論評がなされています。

しかし、このIT産業を見るとき、IBMの発展を支えてきたのがこの団塊の世代であり、また積極的に年下の1955年生まれのビル・ゲーツのマイクロソフトプログラムを使用した世代でもあります。そしてまた、この世代の一部はブログを介した自己表現にも決して無関心ではありません(第三世代を代表するグーグルの創業者、ラリー・ページとセルゲイ・ブリンは、マイクロソフトが誕生して間もない1973年生まれ)。このような観点から見るとき、筆者は、「日本の若い世代には、まったく新しいタイプの日本人が生まれつつ」あり、その世代の「二極化した上側のスピリッツと潜在能力は、私たちの世代を大きく凌駕している」ことを理解したうえで、この著作を起こしていますが、
必ずしもこの著作の意味するところは、読者層の年齢制限を大幅に上げても問題なく理解されるのではないかと思わせます。

ここではあえて、「不特定多数無限大」へとひろがるウェブ進化、「あちら側」世界 構築するグーグルについての著者の説明については述べませんでした。是非一読いただきたいからです。少なくとも新しい時代が生まれつつあることが、実感させられることは間違いありません。