White
White CEC LOGO HOME 製品 テクノロジー サービス 会社概要 コラム メール English White
White
タイトル



第79回 2007/5/01
「外来生物法」施行後2年を経て

寒暖の差が激しかった4月の日々でした。皆様の地域ではいかがだったでしょうか。さて本日は5月1日。ゴールデンウイーク真最中です。全国的には穏やかな天気だと予測されていますが、はたしていかがでしょうか。

2005年の6月1日より施行された「外来生物法―特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律」も、この5月いっぱいで丁度2年を経過することになります。今回は、実施2年を経た「外来生物法」の効果と現状について、その一部分でしかありませんが問題の提起になればと筆を進めてみます。

「外来生物法」については、環境省(自然環境局野生生物課)の次のURLを参照ください。

http://www.env.go.jp/nature/intro/

2005年6月のこの法律施行に際して、私の懸念は次のようなものでした(「独り言」、第56回)。

第1に、「入れない、捨てない、広げない」と規定される外来生物の種を限定したのですが、逆にこの規制外の外来種への無制限な移入を放置、若しくは促進することにならないか。

第2に、ペットとして外来生物の輸入は原則認められていますが、それすら環境へ影響を与えないわけには行かず、それゆえに、こうしたペットの飼養者の環境への影響に対するモラルが極めて大切であるが、このことに関わってなんら明文化されたものがないこと。

第3に、今回規制された生物は、大別して意図的に輸入されて今日に至ったものと、グローバルな経済発展の結果、不可避的若しくは偶発的にこの地に根を下ろしつつあるものとに大別されるが、この移入経路の相違点を明確にしなければ、規制を実施するうえでの対策が困難なのではないか。

2005年「特定外来生物生物」に指定された37種は、2年を経た今日、75種及び、14属に拡大されています。(環境省のホームページのリストで「特定対来生物」と表題されているのは、「特定外来生物」の誤植ではないでしょうか。直ちに訂正されたらいかがでしょう) 更に、この「特定外来生物」に準ずる、「要注意外来生物」にリスト化されている生物は、「哺乳類3種類、鳥類6種類、爬虫類9種類、両生類2種類、魚類21種類、昆虫類7種類、その他無脊椎動物16種類、植物84種類の合計148種類」にのぼります(2006年8月12日版)。

当初予想したとおり、次第に特定される生物種が拡大してきています。しかし、「特定種」もしくは「特定属」に、例外とされる生物が、その根拠は不明ですが、多々記載されています。当初の第1の疑問でありました、特定されないもの(若しくは規制上例外とされたもの)について、動植物を取り扱う専門業者の食指はますます活発に動くのではないでしょうか。網がかかればかかるほど、網の対象外とされたものへと目が向くのは、それを利益追求の売買と考える人たちにとって当然のことでしょう。あえて言えば、本来の日本の生態系を守るというこの法律の趣旨からいえば、原則、自然に生息する外来種の意図的な導入(移入、移管、輸入)は禁止し、研究、学習、その他の合理的な目的の意図が明確である場合のみ許可するように、100%方針を逆転させるべきではないでしょうか。また、飼養目的の生物(ペット)の場合には、人為的にそのような売買のために飼養されたものだけを許可すべきではないでしょうか。日本国政府は、「ワシントン条約」を認めているのですから、「絶滅危惧種」を拡大解釈できないとはいえないでしょう。

さて第2の問題点、ペット飼養者のモラルの問題です。私の住む埼玉県下でも、大型のヘビがおそらく飼い主が捨てたとしか思われない方法で、JRの駅の構内に放置された事件がありました。また、さいたま市にある「見沼自然公園」には周囲1キロ未満と思われる人工の池があります。その池の中ほどに小さな島が作ってありますが、下の写真はその島で甲羅を干すカメの写真です。

埼玉県にとどまらず、日本全国の河川や池のいたるところに「ミシシッピアカミミガメ」(通称ミドリガメ)が猛然たる勢いで増えています。このカメは安価でどこででも入手できます。 こうして子供のペットとして購入したものを、しばらくしてから近くの池や川に放置することがとどまらないのに加え、既にかなりの場所で繁殖が確認されています。環境省は、「繁殖確認事例は少ない」と「要注意リスト」の「アカミミガメ」の備考欄に記載していますが、産卵行動を目撃するまでもなく、春先半冬眠から覚めたこのカメの群れに幼少固体がどれだけ含まれているかを見れば、自然繁殖の実態は明らかです。(韓国ソウル市では、アカミミガメの放流は市条例で禁止されています)

写真1
写真2
写真(1) 
 写真(2)

写真(1)は、左から「ミシシッピアカミミガメ」、「キバラガメ」、「イシガメ」(日本固有種)そして手前の小さい固体が「ヒラチズガメ」で、この小さい場所に、外来種3種類が混在しています。写真(2)です。左から「クサガメ」(日本固有種)、中央3個体のうち、甲羅に赤い模様が入っているのが「フロリダアカハラガメ」、それ以外の2個体が「ミシシッピアカミミガメ」です。2固有種(イシガメ、クサガメ)以外の4種はすべて北米原産で、この池にヒトによって放され、一部は繁殖を開始したと推測されるカメたちです。外来種の放置は、環境省の言うように、固有種の生息を脅かすだけにとどまりません。種自体の混交化を引き起こします。既に、ミシシッピアカミミガメの異常な生息圏の拡大は、混交種(ハイブリッド化)を生み出すにいたっています。

外来生物をペットとして飼う人々へは、明確な法律的規制をかけるべきです。あまたある自然保護団体と協力し、ある程度の飼養ライセンス制度を導入することも検討すべきではないでしょうか。カメの多いことで知られる、この見沼自然公園の池の数倍の広さのある猿沢池では、何と14種類の外来種が生息していることが報告されています(北米より9種類、中国台湾より3種、東南アジアより1種、中近東より1種)。こうした現状では、少なくともカメを飼う人の一部においては、環境保全に関するモラルはきわめて低いか、ないに等しいといってよいかもしれません。

さて、第3の問題です。既に環境省では、その「要注意外来生物リスト」の植物の項目において、「意図的導入」と「非意図的導入」を区別しています。研究部会に携わった諸氏の尽力には敬意を表します。しかし、せっかく「意図的」に導入されたと判断されたのであり、それが固有植物に「要注意」な存在であるとすれば、まず輸入は禁止すべきではないでしょうか。

環境省の最新の「外来生物法」に基づく「防除実施計画の概要」(本年4月2日現在)では、ジャワマングースとオキヒキガエルの2種類の鹿児島県、沖縄県における駆除計画が予定として載せられているだけであることがわかります。いったん異なった環境に適応し始めた生物種を、広範囲かつ人為的に駆除することは、多くの学研によって極めて困難であることが知られています。そうであればやはり入り口規制の徹底を図り、時間がかかっても、多くの人々への外来生物に関わる関わり方に厳重な注意を喚起するあらゆる方法を取ることが必要ではないでしょうか。

冬鳥が去り、夏鳥がやって来ています。木々や草花も勢いよく芽吹いています。そうした中、日常の自然観察の場で、「意図的に持ち込まれた」外来種が、これほど多く身近に放置されている現状を目撃しますと、陽気に水を差される思いをいたします。